画像引用:蒼開高校サッカー部facebook
2019年度 全日本ユースU-18フットサル兵庫県大会 優勝(2016年度から4連覇)。
2019年度高校サッカー新人戦兵庫県大会では淡路島勢としては35年ぶりとなる決勝に進出。
兵庫の強豪、神戸弘陵との苦しい状況下での戦いをポジショニングの良さと球際の強さ、最後まで高い集中力を保つ健闘を見せ、堂々の準優勝を果たす。
近年、躍進が目覚ましい島内唯一の私立高、蒼開高校サッカー部。
海と空を臨む美しい環境のもと、その躍進を支えた強さはどのように培われ、花開いたのか?
コロナ禍で活動停止を余儀なくされた今も、思考を止めずに希望を見出していくサッカー部 陳洋平監督の指導法についてお話を伺いました。
(電話取材・文/CRANE)
陳 洋平監督インタビュー
監督プロフィール
陳 洋平監督
蒼開高校アスリート進学コース長/社会科教諭/サッカー部監督
神戸生まれ、神戸育ちの在日3世(中国) 2010年帰化
神戸市立葺合高校→ 関西大学
18歳から指導者として、神戸FCジュニアユース(2005 JCY全国大会出場)、ヴィッセル神戸アカデミー(少年少女サッカースクール)に携わる。
2011年、31歳の時に学校法人 柳学園高等学校の教諭、サッカー部顧問に就任。同年、出身地である神戸市より洲本市に移住。
2018年度、前身の「柳学園」から「蒼開高校」と校名が変更。現在も、情熱を持って生徒指導に当たっている。
主体性を積み重ねて
―ここ数年の蒼開高校サッカー部の躍進は目覚ましいですね。どんな取り組みがチームの強さに繋がったのでしょうか?
陳監督
まだまだ未熟なチームですが、生徒には「主体性」を持った取り組みを指導してきて、その積み重ねが新人戦での準優勝に繋がったと思っています。
2018年度の校名変更に伴い創設された「アスリート進学コース」での授業や、サッカー部が8年間続けている幼稚園児、小学生向けのサッカースクールでの取り組みも、主体性を育むうえで効果が大きいと感じています。
―「主体性」とても良い表現です。「自主性」ということとは少し違いますか?
陳監督
そうですね。よく、「自主練」という言葉が使われますが、うちでは「主体練」という言葉を使っています。
自主性×(判断+責任)=主体性と表現すると分かりやすいでしょうか。
与えられたことを自分からやるということだけに終わらず、そこに必ず自分の判断を入れたり、責任を持って取り組むことまでがセットだということを意識して欲しいですね。
―その「主体性」を育む要因のひとつにアスリート育成コースの授業があるんですね。淡路島という自然豊かな環境の恩恵も大きそうです。
陳監督
コースの柱となる「心育(ここいく)」では、ゲスト講師による、メンタルトレーニング、※ファシリテーション、栄養学の授業や、地元の専門学校と連携した運動生理学の授業が行われています。また、専門種目以外の他競技を取り入れて身体能力向上を目指す「クロストレーニング」も取り入れています。
カリキュラムの中には勇気を育むための「ブレイブ」というプログラムもあります。
春、夏休みなどの期間を利用して、富士山登山、アワイチサイクリング(淡路島1周150kmロングライド)、ナイトウォーキング50kmなどの冒険プログラムを行ってきました。
アワイチサイクリングは既存のイベントへの参加ではなく、学校独自で企画しますが、保護者のみなさんがエイドステーションを設置して、補給食などを準備してくださいました。淡路島の自然の恩恵や人々の一体感を感じるところがとても大きいです。
※ファシリテーション(facilitation):会議や、教育などの場で、組織や参加者を活性化させ、ことが円滑に運べるよう支援するリーダーの持つ能力のひとつ。
教えることは二度学ぶ
画像引用:蒼開高校サッカー部facebook
ー主体性を養う上で、サッカースクールの運営も大きな影響があるということですが、スクールはどのように運営されているのでしょうか?対象はいくつかのカテゴリーがありますか?
陳監督
カテゴリーは僕が受け持つ「年中」の他、女子部員が教える「年長」、男子部員がグループに分かれて指導する「U-9(小学校低学年)」、「U-12(小学校高学年)」の4つです。
練習メニューは会費を頂いていますので、サッカー指導者である僕が考えて提供しますが、それを決められた2時間の枠でどう組み立て、どう伝えるかは部員の主体性によるところとなります。
会費はスクールの備品はもちろん、サッカー部の運営資金としてボールやユニフォームなどに充てられます。なので、部費は一切徴収していません。
―なるほど!スクール会費が部の資金となることで、教える側の高校生にも責任感が生まれますね。教えられる側も楽しく成長出来て、双方にとって良いことが多そうです。
陳監督
スクールのコンセプト、「教えることは二度学ぶ」の通り、スクール生とサッカー部員の学び合いの場として双方とても楽しんでいます。
対面パス練習では高校生の強いパスをどう受けたら良いか、スクール生自ら考えながら体の使い方を体得していく様子や、高校生を捕まえる鬼ごっこでは「まず誰から狙う?」「どうやって囲みにいこう?」などと相談しながらスクール生の間に活気が生まれて、どんどん変化・進化していく姿が面白くて。
そこから高校生も様々なことを学び、例えば、教えるためにわざと失敗を演出してみたり、子供たちを楽しませる創意工夫が生まれています。
現在はコロナ禍で運営もストップしていて寂しいですが…早く子供たちの笑顔に会える日が来て欲しいです。
淡路島が生み出す協奏と共創
画像引用:蒼開高校サッカー部facebook
―陳監督には神戸FCやヴィッセル神戸アカデミーでの指導歴があります。蒼開高校サッカー部でもそのノウハウが礎となっているのでしょうか?
陳監督
淡路島に来た当初は、選手同士を競わせて刺激を与えるというやり方もしてみたのですが、その方法がこの土地の感覚に合ってないというか…もちろん選手にも熱量はあるのですがどうもしっくり来なかったんです。
最適な指導法を模索する中、淡路島にまつわる多くのことを知っていくことで、一体感、仲の良さなど、この環境だからこそ育つ感性に合った指導が必要なのではないかと考えるようになりました。
ー淡路島が持つ一体感にはパワーを感じます。印象に残るエピソードはどんなことですか?
陳監督
2月にアスパ五色で行われた新人戦の決勝で、僕らの部は全員で28名しかいなくて。ベンチメンバー以外もボールボーイなどの運営があったため、応援席には一人もいないという状況でした。
すると、応援席に淡路島の他校のサッカー部員が太鼓を持って現れたんです。気が付くと先生方やOB、他校も含む保護者の方、自分たちの試合でアスパ五色に来ていたスクール生など合わせて150人の方が沢山の声援を送ってくれました。
画像引用:蒼開高校サッカー部facebook
―すごい!それは本当に嬉しいですよね!
陳先生
まさに淡路島の高校全てでワンチームだと感じ、とても感動しました。
淡路島の良い意味での隔たりの無さ、この環境で育つ感性を大事にして行く方が良い指導が出来ると思いました。
もちろん、サッカーに「競争」は必要です。勝つことで強くなっていくと思っていますし。それを踏まえたうえで、競争から個々の持つ力を連携させる「協奏」に発展させ、一緒にチームを作り上げ、目標を共有していく「共創」を目指すようになりました。
どんなときもフエゴセリオ
―コロナウィルス感染拡大防止のため練習することもままならず、4月26日にインターハイの可否判断されるという状況になってしまいました。
新人戦でのお話を聞かせて頂き、ますます今年のインターハイにかける思いは特別だったと思うのですが…部員の皆さんにはどんなことを伝えていますか?
陳監督
新型コロナウイルスの影響で、インターハイ開催は厳しい状況です。
新人戦での準優勝がまぐれじゃない証明と、「あとは優勝しかない」と目標を立てていたので、中止になってしまったら無茶苦茶悔しいです。
だけど、それは他のどのチームも、どの競技でもみんな同じです。
サッカー部のコンセプト、「真剣に遊べ(juego serio:フエゴセリオ)」はどんな状況下でも「心」から楽しめるようにするということを意味します。そのためには、主体的であることが重要です。
今はやれることをやるしかない。限られた状況下になってしまうけれど、アイデアを出しながら、共有しながらやれることをやって欲しい。
「やれること」が「やりたいこと」であればなお良いし、「やりたいこと」が「やらないといけないこと」と同じになれば究極ですよね。
この期間を、「コロナ哲学」と題して、「一日一学一感動」日誌を積み重ねることをしています。
三流は環境に嘆き、二流は環境に慣れ、一流は環境を創る。
淡路島は小さくて大きい島です。五感と選手を育むのに必要な要素が溢れています。
そして、ブルーオーシャン(競争が少ない)だからこそできることがあります。
今でいう※SDGsで、持続可能な循環システムの構築を目指して欲しいと思っています。
※SDGs:「持続可能な開発目標」と呼ばれる、国連加盟193カ国が全会一致で採択した、2015年から2030年にかけて達成するための行動計画。
蒼開高校サッカー部データ
監督:陳 洋平
コーチ:藤岡大輝
コーチ:岡本夕季(女子サッカー監督)
部員:40名(島内生18+島外生22名)
チームスローガン
勇気あるところに希望あり
チームコンセプト
juego serio (フエゴセリオ)
「真剣に遊べ」の意
2020年度 漢字一文字
「葵」
過去の戦績
2019年度 全日本ユースU-18フットサル兵庫県大会 優勝(2016年度から4連覇・2017年度全国大会出場ベスト8)
2019年度高校サッカー新人戦兵庫県大会 準優勝
最後に
前身の柳学園から校名を改めた2018年度は今までと未来を「結」ぶ、2019年度はこれまで繋いできた努力の花が「咲」くというように、蒼開高校サッカー部員は毎年思いを込めて漢字一文字を決めています。
部員一人ひとりが一文字を選んでプレゼンし、投票と議論を重ねながら、ベスト8、ベスト4と絞り込み、一文字を決定するのだそうです。
2020年度の一文字に選ばれたのはキャプテンが考えたという「葵」。
太陽に向かって成長する様を表すその一文字には、コロナ禍において練習や試合ができなくても、今できることを考え、取り組もうとするひたむきな姿を現しているようで、陳監督の指導が部員の皆さんの中に脈々と流れていることを感じました。
この難局を乗り越えた時、グラウンドには沢山の選手達が戻ってくる。
1日でも早く、コロナが終息することを願っています。
画像引用:蒼開高校サッカー部facebook
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