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子どもたちに知ってほしい!サッカーの裏方職業についてのまとめ。⑤第3ゴールキーパー編

将来、子どもたちの職業の選択肢になるかもしれないサッカー選手以外の裏方の職業についての第5弾です。

実業之日本社から出ている『サッカーの憂鬱』(能田達規著)をテキストに、サッカーの裏方の職業をシリーズでお届けします。

今回は第3ゴールキーパーについてです。第3ゴールキーパーというポジションについて、少し深く掘り下げてみましょう。

「子どもたちに知って欲しい!」シリーズのバックナンバーまとめはこちら!

photo:Nicole Miller

CASE.5 あらすじ

場面はグラウンド。練習風景のあと、小さな娘とお風呂に入っているシーンが描かれます。「パパ、早く試合に出られるといいのにな~」という娘に、苦笑いする彼、西田さんが第3GKです。

第3GKは、『サッカーの憂鬱 裏方イレブン』のCASE.5と『サッカーの憂鬱 裏方イレブン 2』のCASE.8とCASE.9に収録されています。

第3ゴールキーパーって言っても、選手でしょ?なんで裏方イレブンの中に入っているの?」と思う方もいるでしょう。そこに、第3ゴールキーパーというポジションの特異性があるのです。

第3ゴールキーパーの立場とは?

サッカーの試合のサブメンバーを見てみても、ベンチに座るキーパーは1人です。スタメンの1人と合わせて、第2ゴールキーパーまでとなります。つまり、第3ゴールキーパーは厳しい言い方をすると「ベンチに入れない、試合に出られないポジション」ということができます。

Jリーグのチームなどには、第3どころではなく、第4ゴールキーパーくらいまでいるのが普通です。1年の中で第3キーパー、第4キーパーはサテライト以外に出場することはほぼありません。日本代表でも、第3ゴールキーパーは代表に指名されても99%試合に出ることはないそうです。正副の2人のゴールキーパーがアクシデントで出場が不可能にならないと出番がないからです。

2006年のワールドカップ ドイツ大会では、大会を通して2人ゴールキーパーを使ったのは32チーム中9チーム。残りの23チームは、1人のゴールキーパーで戦いました。3人のゴールキーパーをすべて使ったチームはありませんでした。

2010年の南アフリカ大会でも、ゴールキーパーを2人使ったのは、出場32チームのうち、わずかに5チームでした。ゴールキーパーを1人だけで戦ったチームは27チーム。第3ゴールキーパーが出場した国は、やはりひとつもないのです。

2014年のブラジル大会においては、オランダのファンハール監督が第3ゴールキーパーのフォルムを入れて「(全試合を通して)全員でプレーできたことは良かった」と語ったことがニュースになりました。フォルムは最後の交代選手でした。これを見ても、第3ゴールキーパーは試合に出すラストパーソンだということが推測できます。

これらのことから、第3ゴールキーパーは「99%試合には出られない」といわれます。

第3ゴールキーパーはベンチには入れるか?

ワールドカップの例で見てみます。

ワールドカップには、23人の選手を登録するよう求められます。そのうち、ゴールキーパーは3人登録が定められています。

ベンチ入りできるのは、スタメンの11名+サブの7名の計18名。代表メンバーとして登録されていても、5人はスタンド観戦になります。

一般的な試合のスタメンについてはこちらに詳しく載っています。(参照サイト:サッカー ルール解説)

交替枠はこの7名のうち、3名までとなっています。ほとんど全てのチームが、この7名の中に1名、第2ゴールキーパーをベンチ入りさせます。第3ゴールキーパーはベンチにすら入れず、スタンド観戦となります。

ベンチにすら座れないかもしれないゴールキーパー、第3ゴールキーパー。第3ゴールキーパーには、しかし大事な役割があるのです。その役割とは何でしょう。

第3ゴールキーパーの役割とは?

第3ゴールキーパーの役割。それは、「チームのモチベーションを高める」ことです。

23人のチームにおいて、試合に出られるのは一度に最大14人です。それ以外の試合に出られない選手はどうしてもモチベーションが下がります。このモチベーション低下は、チームの不協和音を生むことにもつながってしまいます。

第3ゴールキーパーは、ブラジル大会のオランダの例からもわかるように、最も出場可能性の低い選手です。その選手が前向きにまじめに練習に取り組み、ベンチであってもスタンドであっても応援の声を出し、チームの勝利を喜んでいることがチームの雰囲気を向上させ、モチベーションを上げていくのです。

最も出場可能性の低い選手がまじめに練習に取り組めば、それよりも出場可能性の高いほかの選手はサボれなくなります。不平不満も言いにくくなります。「あの人が頑張っているんだから、自分はもっとやらなければだめだ」という雰囲気がチームの結束を固め、勝利へと導く結果につながるのです。

第3ゴールキーパーは、プロだけの話ではない

2015年度、第94回全国高校サッカー選手権大会の資料を調べてみました。

高校サッカー選手権は、30人まで登録することが認められています。出場48チームのうち、ゴールキーパーを2人だけ登録しているチームは8チーム(市立船橋、國學院久我山、各務原、四日市中央工、香芝、米子北、高松南、大分)です。つまり、40チームは3人以上ゴールキーパーを登録しています。

ただし、國學院久我山は全選手を20名しか登録していません。20名登録の場合はゴールキーパーは2人が妥当とされています。

残り40チームのうち、4チーム(秋田商、矢板中央、鳴門、東福岡)は、第4ゴールキーパーまでを登録しています。第4ゴールキーパーは、第3ゴールキーパー以上に試合に出る可能性が少ないポジションです。ほぼゼロと言っても良いのではないでしょうか。

ゴールキーパーを志しているジュニア選手のみなさんが、第3ゴールキーパー、第4ゴールキーパーとして試合に臨むとき、どのような姿勢で臨んだらよいのでしょうか。それを権田修一さんの姿勢に見ることができます。

「チームが勝つために、自分が何ができるか」

権田修一さんは、2010年10月のザックジャパンの初陣となったアルゼンチン戦以来、日本代表として出場したのは東アジア杯・オーストラリア戦の1試合のみです。

年代別代表を総なめにしたといわれる華々しい経歴と、第3ゴールキーパーというポジションは彼に心境の変化を与えます。

「僕はこれまでの人生で試合に出てないことのほうが少なかった。(中略)ベンチにいるときにどういうアップをしたらいいか、ベンチからどういう行動を見せるべきかもわかっていなかった」

「でも今は、試合前は『自分が試合に出るんだ』って気持ちで調整して、メンバー発表で自分じゃない選手の名前が呼ばれたら、そこからはチームが勝つために自分が何ができるかを考える」

参照・引用:「23人じゃなくて、25人」。献身的にチームをささえる権田修一。“第3GK”が語るチームで戦う意味

そこまで気持ちを切り替えるには、かなりの努力を必要としたであろうことは、想像に難くありません。チームのために、自分が出ていない試合のときに何ができるか。

ただ、彼はチームのことを考え、まとめ、チームのモチベーションを高めるために献身することができました。それが彼の高い評価につながっているのです。

「試合に出られない」を越えて

『サッカーの憂鬱 裏方イレブン』で第3ゴールキーパーは、第2ゴールキーパーが負傷退場するというアクシデントの結果、試合に出場することができました。

ところが、『サッカーの憂鬱 裏方イレブン 2』では、その第3ゴールキーパーは「0円提示」、つまり「戦力外通告」を受けてしまいます。

引退するのか。

チームの下部組織のコーチになるのか。

地元に帰って就職するのか。

さまざまな葛藤とともに心の危機を乗り越えていく姿が描かれています。

第3ゴールキーパーがいなかったら?

ベンチに第2ゴールキーパーまでしか入っていなかった場合、あるいは交代要員を使い切ってしまってからゴールキーパーが負傷した場合においても、サッカーのルールとして必ずひとりゴールキーパーを置かなければなりません。

サッカーのルールでは、「ゴールキーパー不在では試合が行えない」と定められているからです。フィールドプレーヤーが行う場合でも、他の選手と混同しないようにユニフォームを変え、ペナルティーエリア内で手を使うことが認められます。

2006年の全日本女子選手権の準決勝では、なでしこジャパンの不動のボランチMF、坂口夢穂選手が第3ゴールキーパーとしてPK戦に入り、3連続セーブでTASAKIを勝利に導いたこともあります。

サッカーの試合は何が起こるかわかりません。普段はキーパーではなかったとしても、マルチにプレイできるプレーヤーの存在は大変チームに有利に働くことがあります。

ゴールキーパーを目指すジュニア選手のために

たくさんゴールキーパーがいても、試合に出られるのはたった一人。少年サッカーの中では、フィールドプレーヤーのほうが人気が高いといわれているので、ゴールキーパーは競争率は少ないかもしれませんが、圧倒的に試合に出る選手と出ない選手が分かれるポジションです。

ゴールキーパーが試合に出るには、2つの方法がありそうです。ひとつは、ゲームを通してゴールを守る守護神を目指す方法。もうひとつは、2010年の高校選手権で「PK職人」と呼ばれた絹傘新選手(京都久御山高校)のように、「PKだったらこのキーパー」といわれるくらいまで一芸に秀でることです。

最近では、ゴールキーパーであってもフィールドプレーヤーのように最後列から攻撃の組み立てに参加するタイプのキーパーも見られるようになってきました。

カテゴリーが上がっていくと、どのポジションでもいつか「試合に出られなくなる」という事態が起こります。そんな時、どう振る舞うか。何をするか。その答えを教えてくれるのが、第3ゴールキーパーの存在のようです。

参考文献

『第94回全国高校サッカー選手権大会 写真名鑑 高校サッカーダイジェスト』(日本スポーツ企画出版社 2016年1月)

『孤高の守護神 ゴールキーパー進化論』(ジョナサン ウイルソン、実川元子 著 白水社 2014年5月)

最後に

試合に出るという見返りがほとんどない状態において、チームへの献身を求められる第3ゴールキーパー。その存在は、ビッグネームが第3ゴールキーパーにならない限り、私たち一般観衆の眼に触れることはありません。

それでいて、チームの雰囲気、仕上がりは彼らの肩にかかっていると言っても過言ではないかもしれません。

サッカーは多くの人によって支えられています。第3ゴールキーパーは、支えられている選手でありながら、支える側にもまわることがあるがゆえに「裏方イレブン」に数えられているのでしょう。

この記事を書いたライター

JUNIOR SOCCER NEWS統括編集長/事業戦略部水下 真紀
Maki Mizushita
群馬県出身、東京都在住。フリーライターとして地方紙、店舗カタログ、webサイト作成、イベント取材などに携わる。2015年3月からジュニアサッカーNEWSライター、2017年4月から編集長、2019年4月から統括編集長/事業戦略部。2023年1月からメディア部門責任者。ジュニアサッカー応援歴17年。フロンターレサポ(2000年~)

元少年サッカー保護者、今は学生コーチの親となりました。
見守り、応援する立場からは卒業しましたが
今も元保護者たちの懇親会は非常に楽しいです。

お子さんのサッカーがもたらしてくれるたくさんの出会いと悲喜こもごもを
みなさんも楽しんでくださいますように。

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