お子さんの「伸びしろ」はどこで測りますか?セレクションで見られているポイントとは何だと思いますか?スペインでプロクラブを率いていた指導者の視野は日本の視野と何が違うのでしょう?
福岡にひとつの「街クラブ」があります。そのクラブはスペイン・バルセロナで指導していた指導者たちがいて、世界基準の指導を行っています。福岡発世界の選手育成を目指すレアッシ福岡FCにうかがってお話を聞いてきました。
取材・撮影:栗原唯/文章:Miz
レアッシ福岡FC
クラブハウスとは思えないおしゃれな事務所に入ると、整理された室内に山のようなトロフィーが出迎えてくれます。
机の上のパソコン画面には試合の分析状況が、窓の外には送迎用の大型バスが。
レアッシ福岡は、
・各年代の指導内容を組織的に統一
・スカウティング部門の充実
・育成指導者の能力向上
・サッカーインテリジェンスを磨く指導
などを特徴として選手育成に当たっているクラブです。
2006年 創立
2013年 NPO法人化
2015年 スペイン・バルセロナで指導者養成事業を手掛けるPreSoccerTeamと業務提携を結ぶ
2016年 スペインで指導者ライセンスを取得し、育成年代の指導経験のある指導者を招聘
2021年 ユースチームの設立を構想
スタッフ紹介
※インタビューはジュニアサッカーNEWSのオリジナルです
吉廣一仁さん(U-15ジュニアユーススタッフ、日本のB級に相当するスペインサッカー指導者ライセンス レベル1保有者)
黒沼遼さん(U-13監督、日本のA級に相当するスペインサッカー指導者ライセンス レベル2保有者)
趣味:食べ歩き。いろいろな国や地域の食文化に触れるのが楽しみ。
後藤弘毅さん(U-15監督、スペイン国内のプロクラブの監督が出来るスペイン国内最上級のサッカー指導者ライセンス レベル3保有者)
趣味:旅行。ヨーロッパ滞在の8年間で30都市を旅して回ったことがある。
この方々の経歴についてはこちら(参照サイト:レアッシ福岡FC)
サッカーをうまくするのは何か?
レアッシ福岡FCでは、2016年度春からスペインで活躍していた日本人指導者を招聘し、スペイン流のメソッドを日本人に合う形で落とし込み、ジュニアユースU-15世代の強化に当たっています。
福岡発世界レベルの選手を育成するために、レアッシ福岡FCが大事にしていることを伺いました。
ジュニア世代から始める「分析」
ーージュニア世代から分析をしていくというのは珍しいケースではないですか?
「日本のジュニアチームではなかなかないかもしれませんが、世界ではスタンダードに行われていることです。
そもそも、分析するのは選手一人一人に合わせた指導を行うためです。試合中はボールを持っていない選手の動きも重要になります。現場で気づいた部分を後で動画を見ながら確認・分析することによって、選手のパフォーマンスをさらに向上させることができます。
チームは大切ですが、選手一人一人の能力を伸ばすことももちろん大切です。選手を見ることによってわかることを指導法にフィードバックします。
そのための動画なので、レアッシではジュニアチームとジュニアユースチームの両方とも、試合中だけでなく練習の動画も撮影して分析します」
試合中は、止まることなくプレーが続くので、その時気になったことや、問題点をスタッフで共有するためにも、必ず試合後に細かく分析することによって様々な課題を抽出し、練習にフィードバックします。
クラブ会員が約300名いるというレアッシでは、スタッフがすべての選手を網羅するためにも練習の動画を資料として分析します。「目立つ子しかコーチに観てもらえない」ということがありえない育成体制です。
分析中の動画も撮らせていただきました!
伸びしろのある選手とは?
ーー将来が楽しみな選手、伸びる選手とはどんな選手でしょうか?
「選手の伸びしろ自体は全員にあると信じています。ただ、伸びやすい選手と伸びにくい選手というのはいます。
伸びやすい選手とは、自分で考えて工夫し、プレーしている選手です。レアッシ福岡のジュニアユースでは、その部分を意識して指導します。
監督から要求されたことを正確に理解して、どうしたらいいのかを決断し、行動に移す。そこまでの早さをシンキングスピードと呼びます。試合は一瞬一瞬が大事。シンキングスピードがどのくらい早いかが次のプレーの成功率を分けてしまいます。
高い理解力とシンキングスピードの速さ、それがジュニアユース年代で一番育成したいことです」
レアッシ福岡のHPを見ると、驚くようなページがあります。試合の結果を掲載するのはどこのクラブでも見ることができますが、レアッシ福岡はその結果に合わせて、選手自身のインタビュー動画を掲載しています。
そこで選手の口から語られるのは、失点シーンについての分析であったり、試合についての感想や分析であったりします。試合の中で思考停止に陥らない基礎作り、自分の言葉で今日の試合を消化していくことが柔らかい頭に与える影響は計り知れません。
U-10年代からインタビューは行われています。
小さいときから戦術指導を行う理由
ーー日本とスペインの子どもたちのサッカーの違いは何でしょう?
「選手の自主性を高めるために、日本では『自由にプレーしなさい』という言葉をよく使うと思います。その自由は、『自分のやりたいプレーをやる』という意味ではありません。
自由に、という言葉はチームのルールやコンセプト、プレーモデルがあったうえで『今何をしなければならないのか』という考えから生まれる選択肢の中から何を選ぶのかが『自由だよ』と言う意味です。この部分の理解が、スペインと日本の歴然とした差です。
スペインでは、ジュニア年代から細密な戦術指導が行われるのは当たり前です。それがベースにあって初めて、選手が次にどんなプレーを選択するのかという選択肢が生まれる。
それがサッカーインテリジェンスだと思います。レアッシでは低年齢からサッカーや戦術をきちんと教えます。スペインのジュニア選手と同様にインテリジェンスを磨いていくことで、世界に通じるサッカー選手を育てます」
レアッシ福岡の指導者には「結果によって選手のプレーをジャッジしない」という方針も徹底しています。結果オーライなのではなく、選手が何を考えてその時そうしたのか、という頭の中を見ることによって選手のプレーをジャッジします。
走りやドリブルなどの技術に特化した戦術や、少ない攻撃パターンのチームだと、選手が次のカテゴリーに進級した時に何をしたらよいかわからなくなってパフォーマンスが落ちる例もあります。
「頭の中」を見て評価されることにより、JFA(日本サッカー協会)も提唱している「試合時間中ずっと考え続けるサッカー」が実現可能になります。
戦術指導ではありませんが、練習中の動画を撮影させていただきました。何のために何をやるか、きちんと説明しながら行われています。
セレクションでは何を見る?
ジュニアからジュニアユースに進級するときには、どのクラブもセレクションがあります。スペインのプロクラブで選手を見てきた指導者は、何に着目して選手を選ぶのでしょうか。
ーーセレクションでは選手の何を見ますか?
「理解力があるかどうか、が一つの基準です。クラブチームやトレセンなどの選考基準は、『目立つこと』だったりします。足の速さなどの体力面や、テクニックのような技術面が飛びぬけている選手は確かに目立ちます。
ですが、現時点で目立たないけれど可能性を感じる選手もいます。現時点では飛びぬけたものはないけれど、こちらの言っていることを理解しようという姿勢があったり、自分の欠点を理解していてそれをカバーするために工夫している選手には可能性を感じます」
ーークラブチームのセレクションだと、トレセン経験や大会での入賞経験などが問われるところもあるようですが。
「レアッシにはそれはありません。トレセンも、日本基準の中の比較にすぎないし、日本基準は必ずしも世界基準ではないからです。
選手たちは、まだまだ成長途上の子たちです。その可能性をもれなく見出して、目に見えない部分まで伸ばしたい。足が遅くても、体が小さくても、持っている可能性を伸ばすことで大きな成長を遂げることが可能です」
保護者の皆様へ
最後に、保護者の皆様へメッセージをいただきました。
足が遅い、体が小さいといって特に悲観する必要はありません。
いい指導者に巡り合えるかどうかということの方が後々重要になってきます。
いい指導者というのは目に見えない部分まで評価してくれて、そこを伸ばしてくれる人のことです。また、トレセンに選ばれなかった、と言って悲観する必要もありません。
日本基準の中で比較し一喜一憂する必要はなく、世界基準で見てみましょう。
レアッシでは世界基準でサッカーを考えます。
今まで何かに選ばれた、選ばれなかった、という評価は関係なく、今のその選手を見つめ、今必要なことを教え、ユース年代、さらにその先でも活躍できる選手を育成していきたいと思っています。
レアッシ福岡は現在、小学6年生を対象にジュニアユースの体験会を実施しています。体験会は、そのチームのサッカーを肌で感じる最高のチャンスです。日程などの詳細はレアッシ福岡FCのHPをご確認ください。
最後に
今回は3人の方にお話を伺いました。文中に話者の名前を出していないのは、3人とも言葉は違えど、話してくださる内容が同じだったからです。
目指すもの、選手のあり方、コーチのあり方、育成についての意見などが見事に統一された考え方が基本にあるのが感じられました。保護者や選手からしたら、ここまで一貫性があってわかりやすいのは安心できると感じます。
当日、分析現場を見せていただきたいということで急きょ、関係者オンリーのスタッフルームに入れていただきました。サッカー部の部室のようなものを想像していたのですが、デスクが13台くらい並んでいてきちんと整頓されていて綺麗でした…!
選手にも整理整頓を徹底させているであろう雰囲気が伝わりました。整理整頓ができる人は、頭の中も整理整頓されているといいます。ここで育っていくジュニアユースの選手たちの活躍が楽しみです。
取材・撮影:栗原唯/文章:Miz