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子どもたちに知ってほしい!サッカーの裏方職業についてのまとめ。⑬仲介人(代理人)編

将来、子どもたちの職業の選択肢になるかもしれないサッカー選手以外の裏方の職業についての第13弾です。
実業之日本社から出ている『サッカーの憂鬱 2』(能田達規著)をテキストに、サッカーの裏方の職業をシリーズでお届けします。
今回は仲介人についてです。シリーズでは「代理人」となっています。代理人が仲介人になったのには事情があります。

仲介人という職業について、少し深く掘り下げてみましょう。

CASE.13 あらすじ

場面はクラブチームの社屋です。チームの選手が、イタリアのフィレンツェというチームに移籍するということが、スポーツ新聞にすっぱ抜かれました。

「選手の移籍はクラブ同士の交渉が基本だろう?」「なんなんだ、代理人と言うやつは勝手なことをして!」と怒り狂うクラブ社長。

この漫画は2011~2013年に描かれたものなので、この当時はまだ「代理人」と言う人がいました。今は「仲介人」と名前を変えています。選手の人生を左右するとも言われる、仲介人とはどのような人でしょう?

仲介人って何?

仲介人とは、選手の代わりに他のクラブへの移籍を仲介する職業です。

仲介人の仕事は、以下のようなものです。

・選手と契約し、売り込む

選手は、自分をもっと輝かせるチームに移りたくても、チームの下調べや実際の交渉に直接出向くことは不可能です。

自分で動いていたら、人目につき、話題になってしまい、スポーツ紙に取り上げられることもあるかもしれません。その結果、今いるチームにいられなくなるなどの困った現象が起きてしまいます。

そんなとき、選手は仲介人と契約します。新しく決まる年俸の何割を報奨金とするなどの取り決め(人によって違うようです)を経て、仲介人は選手を売り込めるチームをいろいろ探し始めます。

・実際の移籍に向けて交渉する

海外のチームが「よいディフェンダーはいないか」と仲介人にオファーを出せば、そのチームにとっての「良い」とは何かを考えたうえで該当する選手を売り込みます。

選手自身が「もっとほかのところでやりたい」「海外でやりたい」といえば、条件に合ったところを探します。

戦力外通告はもっと深刻です。戦力外通告は来年度契約に明示される年俸が「0円」と記載されることによって戦力外の通告を受けますが、選手もそれで引退するのか、プレーを続けるのかを即時即断しなければなりません。

続けるのなら、移籍先をすぐに探さなければなりません。サッカー選手は結婚が比較的早く、20代中盤でも家庭を持っている選手が珍しくありません。

家族を養うために、すぐさま来シーズンプレーできるチームを探したい。そんなときも仲介人の出番です。

・選手がより活躍できるようなチームを探す

良い選手なら試合に出られるというものでもありません。良い選手でも、チームの戦術に合わなかったり監督と合わなかったりすれば、試合を干されているという可能性もあります。

仲介人は、選手の強みや特性を理解したうえで、もっと活躍できそうなチームに売り込むこともします。

交渉こそ仲介人の腕の見せ所

仲介人は、自分と契約している選手の人生を守るために働く職業です。そのために一番必要となってくるのが、移籍先のチームとの「交渉力」です。

世界基準の交渉力で名高いロベルト佃さんという仲介人がいます。ロベルトさんは、長友佑都選手や中村俊輔選手とも契約し、選手を輝かせる移籍を数多く行ってきた人です。

ロベルトさんの交渉力は、「選手を守る」ためにあります。

◆スポンサー移籍は断る

選手についてスポンサーも移ることを、スポンサー移籍と言います。スポンサーがチームに支払う収入が一緒についてくるので、ヨーロッパなどのチームでは「彼には何というスポンサーがついてくるのか?」という聞かれ方をすることもあるようです。

ロベルトさんは、「スポンサー移籍の話をされたら断る」と決めています。スポンサーの落としてくれるお金だけが目的で選手を取るようなチームに選手を入れても、その選手の幸せには結びつかないからです。

ひどい場合には、スポンサー収益だけが目標で獲得されてしまう選手もいます。試合に出すことが目的ではなく、スポンサー収益が目当てのクラブに選手を送り込んだら、その選手の将来が閉ざされてしまう可能性も高いのです。

◆期限付きレンタル移籍が前提の移籍は断る

「期限付きレンタル移籍が決まっているのなら、最初からレンタル先のチームに行った方がよい」とロベルトさんは言います。

最初からたらいまわしを目的として獲得されるよりも、本当にその選手を望んで取ってくれるチームに行った方が、選手として活躍できるチャンスは増えます。

「期限付きレンタルが悪いとは言わない」とロベルトさんは言っています。「でも、最初は小さなクラブでも、そこからステップアップしてビッグクラブに行った方がよい」と。長友佑都選手も、最初の移籍はチェゼーナでした。

選手のことを真剣に考えてくれる仲介人と巡り合えれば、選手の選手寿命が延びるばかりか、結果すら違ってくることがあります。

その大事な「仲介人」に、今大きな嵐が来ています。

「代理人」はどこへ行った?

2015年の3月31日まで、この職業は「代理人」と呼ばれていました。FIFAが定めた試験を受け、合格した人しか「公認代理人」を名乗ることはできませんでした。

2015年4月1日から、公認代理人と言う制度自体が撤廃されました。誰でも自由に仲介人(代理人)として活動できるようになりました。

無試験で誰でも名乗ることができるようになったため、トラブル多発の可能性が出てきているのです。

芸能事務所が仲介人になった場合

全ての芸能事務所がこうというわけではありませんが、芸能事務所の中には、視聴率を取ることを第1に考えるというところがあります。

視聴率は、今「旬」の選手に集まります。すると、抱えている選手をどんどんメディアに露出されることが増えるかもしれません。

すると、選手のメンタルに影響が出たり、練習時間が減らされたりします。休養を取らなければいけないシーズンオフに仕事がどんどん入るかもしれません。選手がタレント扱いされることによって、選手寿命が減ってしまう可能性が出てきてしまいます。

不勉強な仲介人によるトラブル

これは実際にあった話です。

J2に所属していた選手が2人、無資格代理人からタイのチームへの移籍の提案を受けました。そこで、「移籍金をゼロにするために、現在の所属クラブとの契約を解除すれば移籍できる」との話を受けます。

2人の所属クラブも、2人の将来を考えて契約を解除しました。

しかし、そこから移籍先が見つかることはなく、収入は途絶え、2人のサッカー人生は終わってしまったのです。

不勉強な仲介人では、語学の問題やその国の風習に詳しくないため、決まる契約も決まらないことがあります。

公認代理人が廃止されたことで、無責任な仲介人が跋扈するようなことになれば、選手は仲介人を選ぶ目も持たなければなりません。

ちなみに、2016年は109名の仲介人がJFAに登録しています。うち、元公認代理人は31名しかいませんでした。
3倍近くに増えた仲介人の中から、本当に自分のことを考えてくれる仲介人を見抜く目も選手やクラブには必要となってくるでしょう。

仲介人に必要な「つながり」

移籍のシーズンは、玉突きのように選手が動きます。DFを1人入れたチームは、DFを1人外に出さなければいけないからです。

その玉突きシーズンを乗り切るために、仲介人はクラブや同業者とのつながりを必ず持たなければなりません。仲介人は片手間にできる仕事ではなく、本当に選手のことを考える人が専業でやる仕事だと言えます。

まとめると、仲介人に必要なのは以下の通りです。

・高い交渉能力
・サッカーと法律に関する知識
・業界内のパイプ
・先読みする力

そして、何よりも選手のことを親身に考えることが必要です。

公認代理人制度がなくなった理由

選手の移籍は、何千万、選手にとっては何億というお金の動く世界です。無資格で参入する人もヨーロッパや南米では横行し、そのために選手の将来(特に未成年選手の将来)が脅かされる事態が相次ぎました。

そのため、FIFAは代理人制度を撤廃し、その代わりに仲介人という役割りを設けました。資格が要らなくなった代わりに、契約の詳細を各サッカー協会に報告する義務を設けたのです。

これによって、仲介人は契約を開示しなければならなくなりました。

FIFAのシステムを訳すと、次のようになります。

透明性:仲介をすることによって生じた契約の報酬や支払いについて完全に公開する、公表する
仲介料の支払いについて:仲介人に対して選手とクラブがどのくらいの割合で支払ったかを明確にする
利害衝突:利害の衝突が起きた場合は、適切に公表する
未成年者の保護:未成年の契約選手には、仲介料が発生しない

原文はこちら
WORKING WITH INTERMEDIARIES ? REFORM OF THE PLAYERS’ AGENTS SYSTEM(参照サイト:FIFA.com)

これらの手続きが怠られたり、登録された仲介人がルールを守らなかった場合、選手やクラブにも懲罰が科されることになります。

仲介人の「やりがい」とは

選手のサッカー人生は、今いるチームで完結するものではない場合がほとんどです。

戦力外通告をされたり、今いるチームでずっとベンチにすら入れなかった選手が、チームを代わったことによってスタメン入りし、生き生きと活躍して代表にまで選ばれる…このようなシーンを皆さんも何度か目にしているはずです。

その選手がより輝ける場所を用意することが、仲介人の一番の仕事です。

『サッカーの憂鬱 2』の中で、代理人はつぶやきます。
「代理人の喜びは選手が移籍先で活躍すること」。

家族まで含めて、選手の一生の面倒を見ること。それが、仲介人の醍醐味です。

仲介人になりたいジュニア選手のために

仲介人には、資格は要りません。Jリーガーの知り合いがいれば、明日からでも登録することだって可能かもしれません。

しかし、きちんと選手の人生を一緒に背負える仲介人になるには、専門的な勉強が必要です。

・サッカーに関する法律の知識
・FIFA、各国サッカー協会のルールに関する知識
・契約締結などに関係するビジネスの知識
・各国のサッカーに関する知識
・交渉のためのスキル
・各外国語(通訳を使う人もいますが、自分で何か国語も使える仲介人もいます)

大変な勉強が必要ですが、選手一人の人生を背負う仕事ですので、大変なのは当然です。

外国語についてですが、通訳を間に挟むと交渉がうまくいかないこともあります。伝え方や細かいニュアンスが伝わりづらかったり、訳しきれないことなどもあります。国際移籍に関しては、自分でも話せないとトラブルの原因になることもあります。

大変でもやはり、選手が輝けるかどうかが自分の方にかかってくる仕事です。やりがいは大きいようです。

勉強したのち、仲介会社などに入って仕事をしていく人が多いようです。もちろん、独立して仕事をしている人もいます。

公認代理人に行われていた試験

参考までに、公認代理人制度があった時に行われていた試験内容はこちらです。

試験内容:筆記試験
(全部で20問。うち、15問は世界各国共通のFIFAルールに関するもの、うち5問は、代理人が登録する予定の各サッカー協会が用意するローカルルールと呼ばれるものについて)

試験は記述式ですので、単純なものではありません。大変難しい試験として知られていました。

参考文献

『世界基準の交渉術』(ロベルト佃 著、株式会社ワニブックス 2012年8月)

『サッカー代理人』(ロベルト佃 著、日文新書 2011年5月)

最後に

Jリーグ得点王を3年連続で獲得した大久保嘉人選手。彼が得点王になったのは、川崎フロンターレに移籍してからでした。現在はまたFC東京に移籍していますが、新天地で活躍できるかどうかは代理人の見極めにかかっているといっても過言ではないのかもしれません。

個人的な技術もさることながら、サッカー選手の人生はチームや環境によって変わるのだと思わされました。大久保選手や稲本選手の代理人を務める田邊伸明氏の手腕ともいえるかもしれません。

世界には、選手の家族が仲介人になっているケースも多々あります。みなさんのお子さんがプロになった時に、仲介人としてみなさんのセカンドキャリアがはじまることもあるかもしれませんね!

この記事を書いたライター

JUNIOR SOCCER NEWS統括編集長/事業戦略部水下 真紀
Maki Mizushita
群馬県出身、東京都在住。フリーライターとして地方紙、店舗カタログ、webサイト作成、イベント取材などに携わる。2015年3月からジュニアサッカーNEWSライター、2017年4月から編集長、2019年4月から統括編集長/事業戦略部。2023年1月からメディア部門責任者。ジュニアサッカー応援歴17年。フロンターレサポ(2000年~)

元少年サッカー保護者、今は学生コーチの親となりました。
見守り、応援する立場からは卒業しましたが
今も元保護者たちの懇親会は非常に楽しいです。

お子さんのサッカーがもたらしてくれるたくさんの出会いと悲喜こもごもを
みなさんも楽しんでくださいますように。

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