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子どもたちに知ってほしい!サッカーの裏方職業についてのまとめ。⑩クラブ社長編

将来、子どもたちの職業の選択肢になるかもしれないサッカー選手以外の裏方の職業についての第10弾です。
実業之日本社から出ている『サッカーの憂鬱』(能田達規著)をテキストに、サッカーの裏方の職業をシリーズでお届けします。
今回はクラブ社長についてです。クラブ社長という職業について、少し深く掘り下げてみましょう。

CASE.10 あらすじ

場所はスタジアムのVIP席。目の前でゴールを割られ、「何やってんだディフェンス!」と頭を抱える若いITベンチャー企業社長に、隣の人が話しかけます。

「社長、もうこんな弱いクラブのスポンサーやめましょうよ…」若いITベンチャー社長は、この間クラブ「下関パイレーツ」の取締役になったばかり。なったばかりでスポンサーを外すわけにいきません。

そうこうしているうちに、下関パイレーツは代表取締役が辞任し、次の代表取締役が若きITベンチャー社長に回ってくるのですが…

「降格」の重い意味

クラブ社長とは、プロチームのクラブの社長のことです。代表とも言います。バックに大会社がいるようなチームは親会社から出向してくる場合がほとんどですが、親会社のいない地域のプロチームは、よそから連れてくるしかありません。

クラブ社長は、チームの経営方針に責任を持つ職業です。チームの方針(Jリーグでどの辺の位置をキープするのか、拡大するのか縮小するのか、どこを補強するのかなど)を決めるのが仕事なのですが、サッカーは勝負の世界です。

読み間違いも起きます。補強が裏目に出ることもあります。選んだ監督がチームとマッチせず、戦績が下がってくる場合もあります。

たとえ前年度リーグで優勝していても、ナビスコ杯で優勝していても、降格圏内に入ってしまえばスポンサー離れは必須です。スポンサーは大事なお客様です。お客様が離れてしまった企業が赤字経営になるのは世の理です。

前年度までの戦績はさておき、常に今年、目の前の試合に全力を尽くさないといけない。それがクラブ社長の仕事です。ピッチで戦うことはありませんが、ピッチ外で一番働いているのは実はこの職業かもしれません。

クラブ社長の解任は「よくある話」

2015年、大分トリニータの溝畑元社長が辞めるにあたり、こんな話を残しています。

「メインの企業をバックに持たず20億円近くのお金を集めることって、ほんま大変ですわ」
「リーグがもっと考えていってもらわないと、地方のチームは成り立っていかないですよ」
「私が辞めることを融資条件にされるかもしれません」

この結果、溝畑元社長は大分トリニータを辞任し、新しい社長に交替します。

2015年度、トリニータは5月に青野社長のお詫びの言葉をホームページに掲載し、12月23日には榎社長が就任しました。※参考文献は末尾に掲載しています。

なぜ大分トリニータは経営不振になったのか?

大分トリニータの苦しさを分析してみると、次のようなことが挙げられるようです。

・サッカーが地上波で放映されなくなった
・スポーツ紙も1~5面は野球、サッカーは6,7面
・広告価値が野球、ゴルフ、フィギュアスケートのほうが上がってきている
・チーム数の増加に対するマーケット縮小
・移籍金収入がなくなった

移籍金に関しては、是非の議論はあるようですが、地域クラブにとって「良い選手を育てて高く売る」→「外から強い選手を補強する」という図式は、いわば潤滑油のようなものだったと言います。

それがなくなるということは、経済基盤が薄いチームは選手の取り合いに参加できなくなるということです。強い選手は高い年俸で動いてしまうので、小さなチームは今いる有望な選手に高い年棒を払って引き留めるしかありません。

しかし、スポンサー不足、マーケット縮小の波が押し寄せる中、高い年棒を払おうと思ったら一部の選手だけに給料が集中することになります。結果、選手をまかないきれなくなり、どんどん規模を縮小していかざるを得ません。

「社長室のメンバーは全員、いつでも脱げる」

これはトリニータの溝畑元社長の言葉ですが、スポンサーを取るためにどれだけ必死で社長室のメンバーが働いているかが垣間見えるセリフです。

スポンサーを取るためなら何でもする。実際に、本当に何でもした様子が本に書かれています。そしてこれは、おそらく大分だけの話ではないでしょう。日本のサッカーは、大企業がバックに控えているチームだけではなく、地域チームによっても支えられています。

その基盤が危機にさらされているとすれば、サッカー界も大変なことになっていると言えます。

その中で、自分のチームをどのように強化し、どのように利益を上げ、どのように今期を戦っていくか。同時に、遠ざかっていきそうなスポンサーをつなぎとめ、新たなスポンサーを獲得し、観客動員数を増やさなくてはなりません。

頭を下げ続ける職業…それがクラブ社長なのです。

追い打ちをかける「クラブライセンス制度」

昇格の話題が出るたびに聞く、「クラブライセンス制度」という単語。これは、Jリーグに加盟するクラブとして一定の基準を満たしているか、という資格要件を定めたものです。

クラブライセンス制度の資格要件についてはこちら(Jリーグジャパン)

J3でも、入会金500万円、年会費1000万円なのですが、J2に上がる際のネックになってくるのが「債務超過でないこと」「年間平均入場者数が3000人以下でないこと」「年間営業収入が1.5億円以上であること」です。

選手の頑張りで、チームの勝率が大変良かったとしても、これらの資格要件が満たされないと昇格することはできないのです。

クラブ社長の仕事は、これらの要件をみごとにクリアし、更なる利益をもたらすことによってクラブを強化することです。そのクラブ社長の頑張りの結果、私たちはチームの勝敗に一喜一憂し、来期に望みをつなぎ、スタジアムで熱狂することができているのです。

もちろん、これをクリアし、クラブを強化し、チームを優勝に導くことができれば、難しい仕事だけに喜びは果てしないはずです。

「クラブの行く末の責任はすべて私」

こんなに大変な仕事でありながらも、つらい思いをしながらも続けている社長たち。その根底には、やはり「サッカーが好き、地元が好き、チームが好き」という気持ちがあるのです。無くてはやっていられません。

『サッカーの憂鬱』の中では、若手だったITベンチャー社長ももう10年クラブ社長を務め、そろそろ辞めたいと思うようになっていきます。

家族ともロクに会えず、孫にもゆっくり会えず、「割に合わない仕事」を日々やらなければならない。

「パイレーツ」「パイレーツ」とこだまするスタジアムの中で目を閉じるクラブ社長ですが…

クラブ社長になりたいジュニア選手のために

苦労も多い仕事ですが、うまくいったときの達成感はものすごい仕事です。自分の思うとおりに(予算内ですが)選手の補強や監督の招聘ができ、クラブも黒字にできる夢のような職業、ということができるでしょう。

クラブ社長になるには、大きく2つの方法があります。

◆チームの経営を任される(雇われ社長)

『サッカーの憂鬱』に取り上げられている若きITベンチャー社長のように、経営手腕を見込まれて筆頭株主からチームの経営を任されるようになる道があります。

若手でクラブ社長になる人もいます。30代でなった人も現にJリーグのクラブにいます。もちろん、経営手腕を見込まれるほどの経営センスが必要です。経営センスがあることを注目されるくらいなので、自分の会社を持っているということは条件の一つのようです。

つまり、クラブ社長になる前に、自分の会社で社長になる必要があるわけです。

◆筆頭株主になる

株式会社という名前を皆さんも聞いたことがあると思います。会社を作ろうと思う人は、自分だけで会社の資金が作れない場合、「株式」をみんなに買ってもらってその資金で会社を運営します。

その株式を一番たくさん持っている人が、筆頭株主(ひっとうかぶぬし)です。株式会社は、みんなが持っている株のお金で成り立っているので、筆頭株主の発言は社長をしのぐ場合もあるようです。

たくさんのお金が必要なこと、そして会社を任されてチームをうまく運営していく経営手腕が必要なことは言うまでもありません。

それでは、社長になるには?

社長になるには、2つしか方法がありません。

ひとつは、

◆会社に入り、社員の中から出世する。

もう一つは、

◆自分で会社を作る。

です。

もちろん、クラブ社長になるには、その会社で業績を上げ、「あいつなかなかすごいぞ、チームを任せたら押し上げてくれそうだぞ」と感じさせる必要があります。

社長には学歴や職歴は関係ありません。会社を興すのも、今は会社の資本金(もとになるお金)は1円から良しとされています。以前は株式会社で1000万円以上、有限会社で300万円以上の資本金が条件とされていました。

作るのは簡単ですが、運営していくのは大変なのが今の会社といわれています。

ですが、今の皆さんが大人になるころ、37%の人は今の大人が全然知らない職業に就くという推測がされています。

今の大人が子供だったころ、「IT」という言葉はありませんでした。「システムエンジニア」という職業もありませんでしたし、「ユーチューバー」というものもありませんでした(若い保護者の方、違っていたらすみません)。皆さんの10年後、20年後に何が待っているか、わかりませんよ!

みなさんはまだまだ未知の可能性を秘めています。ジュニアサッカーNEWSの読者の中から、クラブ社長が出てくることを楽しみにしています!

参考文献

『職業サッカークラブ社長』(野々村芳和 著、ベースボール・マガジン社 2013年4月)

『社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年』(木村元彦 著、集英社 2010年5月)

最後に

クラブ社長というのは、もっと違う仕事だと思っていました。どちらかというと、好きにチームをコーディネートして、やりたいことがやれるからいいな、くらいに思っていたのです。

調べていくうちに、これは大間違いだったということに気が付きました。2015年度だけでも、解任された社長を数人数えることができます。調べたらもっといるかもしれません。

クラブも立派な企業です。黒字決算になるようにとどのクラブも願っているはず。

もうすぐJリーグ再開です。勝つチームもいれば、負けるチームもいるのが勝負の世界。どのようなドラマが始まるのか、括目して見たいと思います。

 

この記事を書いたライター

JUNIOR SOCCER NEWS統括編集長/事業戦略部水下 真紀
Maki Mizushita
群馬県出身、東京都在住。フリーライターとして地方紙、店舗カタログ、webサイト作成、イベント取材などに携わる。2015年3月からジュニアサッカーNEWSライター、2017年4月から編集長、2019年4月から統括編集長/事業戦略部。2023年1月からメディア部門責任者。ジュニアサッカー応援歴17年。フロンターレサポ(2000年~)

元少年サッカー保護者、今は学生コーチの親となりました。
見守り、応援する立場からは卒業しましたが
今も元保護者たちの懇親会は非常に楽しいです。

お子さんのサッカーがもたらしてくれるたくさんの出会いと悲喜こもごもを
みなさんも楽しんでくださいますように。

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