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子どもたちに知ってほしい!サッカーの裏方職業についてのまとめ。②クラブ広報編

将来、子どもたちの職業の選択肢になるかもしれないサッカー選手以外の裏方の職業についての第2弾です。

実業之日本社から出ている『サッカーの憂鬱』(能田達規著)をテキストに、サッカーの裏方の職業をシリーズでお届けします。

今回はクラブ広報についてです。広報という仕事について、少し深く掘り下げてみましょう。

「子どもたちに知って欲しい!」シリーズのバックナンバーまとめはこちら!

CASE2 あらすじ

場面はスタジアム。連敗しているJリーグのチームの試合が今も連敗で終わったところです。

怒り狂うサポーターに対し、メガホンマイクひとつで女性広報が叫びます。「物を投げるのはやめてください」「話なら広報の私が聞きます」。もちろん、サポーターはそんな言葉を聞きません。

メガホンを握りながら、(もーやだ この仕事…辞めたい…」という場面から始まりますが…

広報が「辞めたい…」と思うとき

クラブ広報とは、タフでなければつとまらない職業として語られることが多い仕事です。

仕事の中身は情報発信とメディア向けの取材対応が主です。

具体的な仕事内容としては
・プレス向けの資料作成
・ウェブサイトや携帯サイトの運営
・メールマガジンの作成
・マッチデイプログラムやイヤーブック、オフィシャルマガジンの作成
・選手やクラブへの取材対応と日程調整
・記者会見の準備と進行
などが挙げられています(参考資料は末尾に記載しました)。

このほか、各種イベントへ参加する選手の選考と調整なども広報の仕事です。普段のチームの練習までいつも見ている方もいらっしゃいます。「広報の休みはあってないようなもの」と言う方が多いのですが、確かにそのスケジュールを聞いていると「いつ休むの?」と思ってしまうのも事実です。

精神的にも、肉体的にも強くなければ広報は務まりません。チームの成績が下り坂でサポーターには責められ、メディアへの露出は減り、スポンサーもいい顔をしなくなる…これでは、「辞めたい」という言葉が出てくるのも無理はない、と思わせられます。

広報という仕事の意義は?

忘れがちですが、Jリーグは「営利企業」です。試合を見に行くときに払われる入場料や、企業とタイアップするときの宣伝料などで運営される普通の企業です。

チームを運営し、存続させ、補強するためには当然収益を上げる必要があります。たくさんお客さんが来てもらえるように、メディアにも露出して知名度を上げていかなければなりませんし、ホームタウンの人たちにチームや選手を知ってもらうことも必要不可欠です。

チームのため、ホームタウンのために働く

数年前まで川崎フロンターレのプロモーション部部長兼広報グループ長をしていたことのある天野春果さんは、著書の中で「チームの収益は、ホームタウンに住む人を豊かにするための収益」と述べています。

クラブの強化だけではなく、地域住民が心身ともに健康な生活を送れる環境やチャンスをクラブが提供すること、ホームチームを通して自分のホームタウンに誇りを持てるきっかけを与えることができるのがJチームなのです。

選手は試合をして、チームを盛り上げていこうとします。広報はメディアへの露出やイベントの開催を通して、様々な人にチームと選手を知ってもらい、ホームタウンを盛り上げていく。これが広報という仕事の意義です。広報は、「チームの顔」でもあるのです。

「広報はつらいよ」はどこから?

自分のホームタウンのチームが勝ち進んでいて、タイトルも目の前にちらついてくる、となれば集客数も伸びていきます。でもJチームは勝ちっぱなしのチームばかりではありません。毎年降格争いをするチームが出るのは当然です。負け続けているチームの応援はつらいですよね。

そして、冒頭のあらすじ部分のような場面に遭遇することも広報だったら当然ある、と思わなくてはいけません。

広報の一日

試合当日の一日が漫画には描かれています。先ほど述べた広報の具体的なお仕事ですが、そのほかどんなこまごまとしたことがあるのかをご紹介しましょう。

試合前(14:00キックオフの試合)

・マスコミ関係者への受付、対応
・選手の取材への申し込みの調整
・イベントの運営、準備
・ゲーム前のセレモニーの準備
・フェアプレイフラッグ、エスコートキッズへの対応

試合中(前半)

・マスコミの取材規約が守られているか確認
・ハーフタイムショーの打ち合わせ

ハーフタイム

・ハーフタイムイベントの仕切り

試合中(後半)

・ハーフタイムの監督コメントをまとめてマスコミに配布
・スポンサー賞の確認

試合後

・ヒーローインタビューの仕切り
・試合後の記者会見の仕切り
・会場の片づけ
・売上精算
・ホームページ更新のためのデータ作り

こんなことも広報の仕事

実況アナウンサーや解説が、「この選手はこの試合でJリーグ通算50試合目…」というコメントをしている時に、「このアナウンサー凄い!覚えてるんだ!」と思ったことはありませんか?

あの資料はみんな広報が作成して配付しているものです。もちろん、実況アナウンサー自身が調べていることもありますが、チームの選手のことをみんなに良く知っているために、アピールポイントはすべてアピールする姿勢が広報には必須です。

このほか、試合中のトラブルはピッチ内外を問わずすべて広報に第一報が回ってくるところも少なくなく、「試合を見ている暇がない!」という状態になることが普通だそうです。

Jリーグの取材要項はこちら(参照サイト:J.LEAGUE MEDIA PROMOTION)。結構細かく決まっています。

「選手を守る」ことも大事な仕事

気になるルーキー選手がテレビ取材を受けたということで、あなたはテレビを見てみました。インタビューでしたが、もしルーキー選手が口下手で、言っていることもわからなくて、「がっかり」な感じだったらイメージダウンにつながりませんか?

実は、Jリーグに入る選手はみなインタビュー慣れしているわけではありません。何を話したらいいか、どんな態度で話したらいいのかわからない選手もいます。マスコミが嫌いな選手もいます。

逆に、マスコミと近づきすぎてチームの情報を流してしまうようでも困ります。

そうした選手に、マスコミとの付き合い方やインタビューの内容、答え方についてのアドバイスをするのも広報の仕事です。

マスコミへの対応については、選手の態度次第で逆にマスコミに叩かれてしまうこともあります。スポーツメディアの中にもいろいろあり、きちんと裏付け取材をしてから記事にするところもあれば、聞いたことを右から左に記事にしてしまうところもあります。

そうした対応の難しさや機微を教えることは、選手をメディアから守ることにつながります。

J1昇格を手助けしたたった一人の広報

Jクラブのスタッフは、そんなに潤沢ではありません。2009年の最終節で劇的なJ1復帰を果たした湘南ベルマーレは、そのときたった一人しか広報担当がいませんでした。

たった一人の広報担当の名前は、遠藤さちえさん。積極的に企画を書き、自分でメディアに持ち込み、試合にはほぼすべて同行。たおれないのが不思議なくらいの激務の中、昇格を決めた時は社長から「君のおかげだ」と言われたといいます。

広報の素敵なところは、「日々の中で感動がある」と遠藤さんは言います。

大人になると、仕事の中で日々感動があることはあまりないかもしれません。悔しくて泣く、うれしくて人と抱き合うほどの喜びがある仕事は「本当に幸せ」と遠藤さんは語ります。

湘南のJ1昇格を支えた、女性広報のお仕事を紹介。(参照サイト:Number Web)

なぜ広報は「やめられない」のか?

『サッカーの憂鬱』の女性広報は仕事で疲れて体を投げ出したベッドの上で「あんな顔見せられたらやめられない」とまた明日への覚悟を決めます。

本気で嬉しがり、本気で落胆できる仕事。それが広報の醍醐味と言えるのではないでしょうか。

広報をめざすジュニア選手のために

広報は、チームの顔。選手がいくら試合をしても、見に来てくれるお客さんもなく、メディアへの露出もなければ、「サッカーを通して子どもたちに夢と希望を」「ホームタウンに活力を」というチーム構想はかないません。

試合をするのは選手の仕事。でも、その選手の仕事をどう地域のために、チームのために活かしていくかは広報の肩にかかっているといっても過言ではありません。

広報は、
・親会社から出向してくる
・元選手、元マスコミが社員になる
・マネージャーやサポーターが社員になる

という道筋が多く、広報になりたければさまざまな経験を積みながらチームと接触し、その中で「うちで働かない?」と声をかけられることが一般的なようです。

精神的かつ肉体的なタフさを持ち、臨機応変に対応できる能力と柔軟な発想、そして何よりも「サッカーを通じてホームタウンとチームを盛り上げる」という意志が必要です。

参考文献

『ジャイアントキリングを起こす19の方法』(岩本義弘・田中滋・岡田康弘・是永大輔・川端暁彦・土屋雅史・北健一郎 著 シーロック出版社 2011年2月)
『サッカーに関わる仕事』(ほるぷ出版 2003年12月)
『僕がバナナを売って算数ドリルを作る理由』(天野春果 著 小学館 2011年6月)
『メディアと広報』(尾崎健一郎著 宣伝会議 2007年12月)
『愛するサッカーを仕事にする本』(フロムワン 2008年8月)
『メディアを動かすプレスリリースはこうつくる!』(福満ヒロユキ著 DO BOOKS 2011年3月)
『社会との良好な関係を築く 広報の基本』(君島邦雄 著 企業広報ブック 2011年3月)

最後に

2年前、あるJ2クラブの広報担当の方に会う機会がありました。8月も末の夏休み、その方は炎天下のグランドで選手たちの練習を眺め、見学に来たサポーターたちと談笑し、取材に来たマスコミに対応していました。

練習は14時に始まり、16時に終了しましたが、その方は帽子もかぶらずにずっと外に立ったまま。「練習のない日はあっても、僕らの仕事がない日はないですね」という言葉が大変印象的でした。いくつかの質問を受けていただいたあと、クラブハウスに入っていったのは17時を回っていました。

Jリーグの試合に行ったときは、広報さんを探してみてください。ピッチで忙しそうにしている人がいたら、それがきっと広報さんです。たくさんの人に支えられて日本のJチームは成り立っているのです。

この記事を書いたライター

JUNIOR SOCCER NEWS統括編集長/事業戦略部水下 真紀
Maki Mizushita
群馬県出身、東京都在住。フリーライターとして地方紙、店舗カタログ、webサイト作成、イベント取材などに携わる。2015年3月からジュニアサッカーNEWSライター、2017年4月から編集長、2019年4月から統括編集長/事業戦略部。2023年1月からメディア部門責任者。ジュニアサッカー応援歴17年。フロンターレサポ(2000年~)

元少年サッカー保護者、今は学生コーチの親となりました。
見守り、応援する立場からは卒業しましたが
今も元保護者たちの懇親会は非常に楽しいです。

お子さんのサッカーがもたらしてくれるたくさんの出会いと悲喜こもごもを
みなさんも楽しんでくださいますように。

コメント一覧

  • Comments ( 1 )
  • Trackbacks ( 1 )
  1. いつも楽しく拝見しております。
    自分も違う分野での、「広報」を務めてます。
    いずれはサッカー業界で広報をやりたい!と思っており、
    こういった実情の記事があると本当にタメになるなっ!と思いました。

    いつも記事楽しみにしております。

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