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スペインへの挑戦を育てた指導 代表歴なしの女子がスペインリーグに見いだされるまで(秀岳館高校女子サッカー部 矢野 君典監督インタビュー)

2021年8月、スペイン女子サッカーリーグにまた一人挑戦する日本人の選手が誕生しました。
2021年3月まで彼女が在籍していたのは全国高校女子サッカー選手権大会4回出場、熊本県高校総体2回優勝の輝かしい実績をもつ秀岳館高校女子サッカー部。
熊本県八代市にあり、51人の女子サッカー部員が在籍する強豪校です。(2021年8月23日現在)

次のステージに海外を選んだ彼女はどんな選手だったのでしょうか。
そして彼女の夢を応援する監督が思う女子サッカー選手たちの進路についてお話を伺いました。

(画像提供:秀岳館高校女子サッカー部 取材/文:冬馬瑠莉 取材日:2021年8月23日)

お話を聞かせてくれた人

秀岳館高校女子サッカー部 矢野君典監督
経歴
出身地:大阪府
競技歴:奈良育英高校〜愛知学院大学
指導歴:秀岳館高校 監督
【全国大会出場歴】
第26回全日本高等学校女子サッカー選手権大会
第27回全日本高等学校女子サッカー選手権大会
第28回全日本高等学校女子サッカー選手権大会
第29回全日本高等学校女子サッカー選手権大会

「今の日本が好むタイプの選手ではない」

ーーー昨年度の卒業生 山本香月選手がスペインでトライアウトに参加されたと伺いました。
近年、高校卒業後に海外サッカーへ挑戦する女子の選手が増えているのでしょうか?

矢野君典監督(以下、矢野監督)
女子サッカー選手が増えてきたとは言え、海外へ挑戦する選手はまだまだ少数派ではないのでしょうか。

私が山本香月選手(以下、山本)と出会ったころには、すでに「海外へ挑戦する」というはっきりとした目標を持っていました。

山本が秀岳館高校の女子サッカー部へ体験に来てくれた時に、彼女と同じように海外へ挑戦したいと思っていた選手と話をしたそうです。
同じ夢を持つ先輩がいたことも、ここでサッカーをしたいと思ったきっかけになったようです。

山本は1年の時から主力選手として活躍していた選手でした。
個人技が優れておりドリブルが得意で負けず嫌いなタイプ。
3年生の時にはキャプテンとしてチームを引っ張ってくれました。
彼女はここに来てからも「海外でサッカーをしたい」という夢を持ち続けていました。
一度九州トレセンの監督に、山本のプレーを見てもらったことがあります。
その時に、「どちらかというと今の日本女子サッカーが好むタイプの選手ではないかもしれないね。」と言われました。

確かに山本は連携プレーを重視する日本のスタイルより、海外のスタイルの方が自分らしくプレーできるかもしれないと思いました。

でも日本がダメだから海外へ目を向けた訳ではありません。
「私がやりたいサッカーがスペインにある」ということを彼女は分かっていたのだと思います。

彼女の夢をサポートするために私自身の人脈をたどり、留学をサポートしてくれる会社をいくつか紹介してもらうことができ今回の挑戦へとつながっていきました。

カセレス2ndチームのトライアウトを受けた彼女は自分の力でチャンスをつかみ、カセレスの1stチーム(スペイン1部Bリーグ所属)に招集されました。そこからは代理人が驚くほどのとんとん拍子で話が進んでいきました。

1stチームに招集された山本は、レアル・マドリード(スペインリーグ1部昨年度2位)との親善試合に後半途中から出場。
レアルマドリードのチャンネルでライブ配信をしていたので、私もリアルタイムで山本のプレーを見ることが出来ました。
果敢に挑戦していて山本らしいなと思いました。
実況している人が「ヤマモト、ヤマモト」と何度も連呼していましたね。

▽左側前列のマスクを付けている選手が#32 山本香月選手▽

写真・画像:レアルマドリードHP秀岳館高校サッカー部HP

日本では代表経験などの実績がない彼女ですが、カセレスの評価は違ったようです。
挑戦して1週間で正式契約が決まったと報告がありました。
契約内容も住むところと3食の食事が提供されると聞いています。
トライアウトをサポートしてくれた代理人が、短期間で契約に至ったこと、契約の内容にとても驚いていました。
カセレスが彼女のことを高く評価してくれたことを知り、とてもうれしかったですね。

実は山本の先輩で、卒業後入部した社会人チームで悩み、サッカーをやめてしまった選手がいました。
でも山本の挑戦に刺激をうけ、「またサッカーがやりたい、私も海外へ挑戦してみたい」と火が付いたようです。

※山本香月選手が出場したフルマッチ映像はこちらから視聴できます。

最後に進路を決断するのは自分自身

ーーー選手たちの進路について、普段からどのようにご指導やサポートをされていますか?

矢野監督
男子選手と比較しても女子サッカー選手の方が間口が広いのではないかと思っています。
一人の選手に対して複数のチームからオファーがくることも多いです。

そして先輩の後姿を見て今年も卒業後はアメリカでプレーしたいという選手がいます。
彼女は夏休みにトライアウトに挑戦しました。
コロナ禍の中での挑戦は、チームにとっても簡単に送り出せるものではありません。
戻ってきてから2週間の隔離生活があるため、チームの練習にもすぐ合流できませんでした。
高校選手権の県予選を控えている時期ですが、選手の将来も大事ですからね。

選手の挑戦を理解し、許可してくれた校長にも大変感謝しています。

ーーー高校卒業後、サッカーを続ける女子選手の割合は多いのでしょうか?

矢野監督
秀岳館の場合、6割から7割の選手がサッカーを続けています。
しかし、勉強や仕事と両立をしながらサッカーを続けることは簡単なことではありません。

うまくいかないことも多い。そんな時に、自分で決めていないと人のせいにして逃げてしまいます。
だから「親がこう言ったから」「監督がこう言ったから」ではなく、自分の考えで決めなさいと伝えています。

「私は看護師になりたい」とサッカーを辞める選手もいますが、どの選択も真剣に考え出した結論なら応援しています。
もちろんアドバイスもしますが、選手が真剣に考え自分自身で選択した進路を、私たちは全力でサポートします。

個を生かす!目指すは逆輸入の日本代表選手

ーーー秀岳館高校女子サッカー部は熊本県大会で連覇中の強豪校ですが、どのような選手育成を心がけていらっしゃるのでしょうか?

矢野監督
男子サッカー部の段原先生と、指導方法などについては本当によく話します。
海外サッカーの練習メニュー動画などもたくさん見て、よいと思ったものは普段の練習メニューへ取り入れています。
見るのは男子のメニューが多いですね。女子に限定することはしていません。

ドリブルが好きだからドリブルだけでいいというわけではないですよね。
メッシがドリブルだけを好きにやっているかというとそうではない。
ドリブルなのかパスなのか、状況判断ができるプレーが出来るように指導しています。

型にはめたサッカーではなく、選手が持っている個を活かしたサッカーができるように考えています。
山本が海外で成長し、そして日本代表に召集される。そんな日が来たらうれしいですね。

トライアウトへ出発する前の山本香月選手と秀岳館高校女子サッカー部の選手
写真:秀岳館高校サッカー部HP

ーーーどのような選手に入部してほしいと思われますか?

私たちとサッカーをやりたいという選手なら誰でも歓迎します。
こちらからスカウトすることは行っていませんし、セレクションもありません。
興味があるなら秀岳館高校女子サッカーのスタイルをぜひ体験してほしい。
そこで私たちが目指すサッカーに共感し、このチームで一緒にサッカーをしたい。そう感じてくれた選手に来てほしいと思っています。

ーーーありがとうございました。これからの山本選手と秀岳館女子サッカー部の活躍がとても楽しみです。
もうすぐ高校選手権の県予選が開幕しますが、最後に意気込みをお聞かせください。

インターハイでは神村学園女子サッカー部が全国制覇しましたね。
神村学園の優勝に私も選手も刺激を受けています。
高校選手権では自分たちが優勝するんだと、気持ちに火が付いたようです。

ここでプレーしている選手はみんな秀岳館のサッカーが好きで集まってきてくれた子たちです。
集まってきた部員が現在51人、そのうち寮生がなんと50人になりました。
自宅は学校の側なのに入寮した選手がいるほど仲がいいチームです。

今いる選手たちも、大いに期待できる選手たちです。ぜひ応援して下さい。

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最後に

決して型にはめるのではなく、選手の個性を生かした秀岳館スタイルを追求する矢野監督。
矢野監督の指導を受けたからこそ、自分の目指すプレーを求め海外へ挑戦する選手がいるのだなと感じました。
秀岳館高校女子サッカー部と山本香月選手の活躍を応援しています。

この記事を書いたライター

JUNIOR SOCCER NEWSテクニカルマイスター冬馬 瑠莉
Ruri Toma
熊本市在住。2017年1月からジュニアサッカーNEWSでライターをしています。

私には二人の息子をもつ母として、小さな夢があります。
その一つが、いつか息子の運転する車の助手席にのること。
もちろん彼女よりも先に乗りたいという野望付きですw
そして今年の春、その夢が叶いました。
意外に長男の運転が上手で、ちょっと拍子抜けした感はありましたが車庫入れに苦戦するところはまだまだです( *´艸`)

次の夢は、次男がお酒を飲める年齢になったら家族4人でお酒をたのしむことかな♪
あと4年後になりますが、その時を待ちながら息子たちの成長を見守りたいと思っています。

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